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COVID-19重症患者に対する治療法の医師主導治験
COVID-19重症患者に対する治療法の医師主導治験
注目ラボ! 2022.02.17

COVID-19重症患者に対する治療法の医師主導治験

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COVID-19重症患者への治療法を確立し?医療現場の負担軽減、医療資源の有効活用

 未だに出口の見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威。ワクチン接種やマスク着用など、感染予防に力点を置いた対策が講じられている一方で、with コロナ時代を視野に、感染してしまった場合に備えた重症化を抑制する治療法の確立も重要視されています。人工呼吸器での管理を必要とするCOVID-19重症患者は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を合併し、死亡率が高まる傾向にあります。COVID-19重症患者の呼吸不全に対しては人工呼吸器や人工肺(ECMO)が必要となり、パンデミック時にはそれらの医療機器が不足する事態が発生し、医療崩壊を招きかねません。有効な抗ウイルス薬がまだ存在していない現状では、人工呼吸器を回避する治療戦略や人工呼吸器からの早期離脱を可能にする治療戦略が必要となります。COVID-19重症例に対する治療方法を確立することは、患者の救命に寄与すると同時に、医療現場の負担軽減、医療資源の有効活用にもつながるというわけです。
 感染症学が専門の青柳哲史客員研究員を代表者とするグループは、人類が様々な重症の呼吸器ウイルス感染症と戦ってきた歴史の中に、コロナ感染症患者の重症化を回避するヒントが隠されているのではないかと本研究をスタートさせました。過去に発生した高病原性鳥インフルエンザや重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)によるARDS症例で、免疫細胞マクロファージの活性化が原因の二次性血球貪食リンパ組織球症(HLH)が認められたことやCOVID-19重症例でも二次性HLHの存在が示唆されたことからARDSやサイトカイン放出症候群(CRS)、その他臓器障害の原因はマクロファージ活性化による二次性HLHの可能性があると考え、EBウイルス感染症や骨髄移植などが原因の二次性HLHの治療に有効とされているエトポシドとコルチコステロイドを使用するHLH-94プロトコルに着目。二次性HLHを合併するARDSに対する基礎研究として二次性HLHを伴うARDS動物モデルを開発し、エトポシドとコルチコステロイドを併用する実験を行ったところ生存率の改善が認められました。また、基礎的検討および少数例の臨床的検討においてもマクロファージ活性化を認めるARDSの治療にHLH-94プロトコルの有効性が報告されています。これらのことからCOVID-19重症患者に対してもHLH-94プロトコルの有効性が予測されながらも現時点ではまだ本格的な臨床試験は実施されていません。 そこで、同グループがAMEDの支援を受け、COVID-19重症患者に対するエトポシドおよびコルチコステロイド併用療法を用い たmodified HLH-94プロトコルの有効性および安全性を評価するための第Ⅱ相医師主導治験を開始。エトポシド、コルチコステロイドは共に臨床現場でよく使用されており、安全性はすでに立証されているとして第Ⅰ相臨床試験は省略されました。

最重症例を対象とする難しい臨床試験?様々な感染症の重症例への適用にも期待

 医師主導治験概要としては、人工呼吸器装着COVID-19重症患者10名を目標に、日本感染症学会のサポートのもと、東北大学、聖マリアンナ医科大学、北里大学、福島県立医科大学にて多施設共同治験として実施されています。modified HLH-94プロトコルでは、すでに先行治療を受けている COVID-19重症患者が対象であることを考慮し、コルチコステロイドの量が見直されました。エトポシドとの併用でコルチコステロイドの量を減らすことで合併症リスクの軽減も期待されています。また、初回エトポシド投与後、コルチコステロイドの量を徐々に減らしていく過程で臨床的に増悪傾向が見られた場合はエトポシドの2回目投与を検討するとしています。ここで青柳研究員は「対象者は最重症例、つまり、患者さんの生死に関わる局面で行われる治験ですから最大限の緊張感をもって臨むことになります。日本において感染状況が抑えられていることは非常に喜ばしいことです。が、この状況下で目標症例をクリアする難しさを考えると思いは複雑です」と、感染状況に大きく左右される急性の感染症に対する臨床試験特有の難しさを口にしました。
 とは言え、この臨床試験によってエトポシドおよびコルチコステロイドを使用したmodified HLH-94プロトコルの有効性?安全性が評価されることによってもたらされる成果はCOVID-19重症例の治療方法の確立にとどまりません。様々な感染病態の重症化においてマクロファージ活性化による二次性HLHの存在が指摘されながらも十分に周知されていない現状が改善され、病態概念の早期認識につながりその後の治療オプションの広がりが期待できます。また、COVID-19以外の重症感染症においてマクロファージ活性化が重症化の背景にある場合にも modified HLH-94プロトコルが治療オプションの一つに加わる可能性もあります。ウイルスの種類や強度に関わらず、重症感染症という 病態に対する治療法であり、その他にも様々な疾患への適用も考えられます。CRIETOは、感染症領域ならではの難しさを抱える本治験においても煩雑、複雑になりがちな業務を全面的にサポート。医学統計や解析、プロトコル作成支援、治験調整事務局業務等を担当しています。
 同じ細菌やウイルスによる感染症でも免疫反応は人それぞれ。 このことから青柳研究員は今後もマクロファージに着目し、マクロファージを主体とする重症化の病態について基礎的研究も含めて突き詰めていきたい考えです。さらに、これを機に感染症領域においても医師主導臨床研究が活発化していくような素地を築いていきたいと意欲を示しています。
COVID-19によって感染症の恐怖がクローズアップされている今、本治験への関心と理解が深まり、より良い治療法の確立につながることが期待されます。

取材:2021年12月1日

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開発責任者|青柳 哲史(あおやぎ てつじ)

東北大学病院総合感染症科 客員研究員
東邦大学医学部微生物?感染症学講座 准教授
東京都出身。2002年東北大学医学部卒業 。2010 年同大学院医学系研究科修了。東北大学病院検査部、同大学院医学系研究科感染制御?検査診断学講師を経て、2017 年同大学院医学系研究科 総合感染症学分野講師、2018 年~2021年3月同分野准教授。2021年4月より現職。

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