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TUHレポート
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ホテル死亡ゼロを実現した療養ホテル内での往診体制とは-高山真?東北大学総合地域医療教育支援部特命教授に聞く◆Vol.1
ホテル死亡ゼロを実現した療養ホテル内での往診体制とは-高山真?東北大学総合地域医療教育支援部特命教授に聞く◆Vol.1
TUHレポート 2022.01.07

ホテル死亡ゼロを実現した療養ホテル内での往診体制とは-高山真?東北大学総合地域医療教育支援部特命教授に聞く◆Vol.1

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※m3.com地域版『東北大学病院/医学部の現在』(2021年11月19日(金)配信)より転載

 東北大学病院は、第一種感染症指定医療機関であることに加え、地域医療を支えてきた実績、さらには東日本大震災の経験などから、宮城県内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染制御に多角的な活躍をみせる。特に軽症者宿泊療養ホテルにおいては、宮城県との連携のもと、往診機能を集約させた医療機能付きホテルを設け、病床ひっ迫の抑制に貢献してきた。軽症者宿泊療養ホテルで感染者の治療にあたった、東北大学総合地域医療教育支援部の高山真特命教授に聞いた。(2021年10月5日インタビュー、計2回連載の1回目)

軽症者療養宿泊施設で往診する高山真氏(右)

――COVID-19発生当初から東北大学は療養ホテルへの医療支援を行ってきました。当時の様子を教えてください。

 発生当初の療養施設は作並にあるリゾートホテルでした。県からの依頼で2020年4月16日から医療支援を開始しています。当時は院内に広く募集をかけ、手上げ方式で希望する医師が交代で24時間施設内勤務としていました。また当院看護部からも毎日1人ずつ、交代での夜間常駐支援をしてくれていました。今思えばですが、発生当初の入所者は5~10人程度で、症状がない方がほとんど。軽症でも市販薬で対応できていました。症状があればすぐ入院でき、悪化したとしても救急搬送する余裕もありました。

 ただ、ウイルス自体については何も分かっていなかった。怖いという精神的な問題は今以上でした。医師でも患者と接するのに二の足を踏む方がいたほどです。直接対面でタイベックスーツが必要と言っていたくらいですから、緊張感は今よりもずっと強かったですね。

――ホテル内で往診していますが、開始したのはいつ頃ですか。

 2020年6月に療養施設を作並のホテルから市内のホテルに移動したのですが、偶然そのホテルの2階に薬局が入っていたんです。第2波を経て感染者が落ち着いてきた10月上旬、当院からの往診という形で発行した処方せんに対応していただけることになりました。往診といっても、当時はバイタルサインと問診のみ、カルテは紙だったので、紙カルテを記入してコピーを大学に持ち帰り、薬局が閉まらないうちに急いで処方箋を出す、という日々を送っていました。

 しかし間もなくして、自動車学校でクラスターが起き、70人がどっと入所したんです。担当者一同パニック状態でした。一番の問題は、たくさんの紙カルテを管理する運用システムがないことでした。さらに患者情報は保険証の情報、保健所からの検査の情報、県からの情報とバラバラで、フォーマットが統一されていませんでした。これは後に解決していくのですが、この頃は管理する側と医療を提供する側の運用がうまくいかなかった時期でしたね。

軽症者療養ホテルの事務局の様子

――往診の患者情報管理はどのように行ったのですか。

 毎日、健康観察票からバイタルを確認して往診の適応を判断し、同意を得て往診手続きをしていました。健康観察における症状評価については、当初から10段階評価を導入しました。症状が良い、悪いだけだと判断が曖昧になり退所判定がしにくいという問題が出てくるので、ゼロは症状なし~10点満点が我慢できない、という段階的な評価で数値化していました。項目それぞれを電話で患者さんに聞き取り、点数をつけていきました。

 2020年末の第3波の頃になると、入院判断が必要な患者が増えたこともあり、入院適応をしっかり判断する必要が出てきました。年が明けて2021年1月15日からポータブルレントゲン検査、2月1日からは採血、その後、酸素供給器も設置しました。カルテについては、当院のメディカルITセンターの尽力で「みやぎ医療福祉情報ネットワーク(MMWIN)」を活用して、東北大学病院の診療端末を用いてホテルで実施した検査データを当日中に閲覧できるようにネットワークを整備していただきました。さらに、診療端末をミラーリングできるタブレット端末を導入し、カルテ記載をホテルで行えるように整備していきました。MMWINによるネットワーク整備により、ホテルだけでなく、県庁の医療調整本部、東北大学病院間での診療情報の共有が可能となったので、中等症から悪化しつつある患者をフォローする体制ができていきました。

 重症化の目安となる酸素飽和度については、一人一人に電話で数値を聞いていたのですが、効率が悪くかつタイミングによっては3%前後の誤差が出ることもあり、入院調整の判断材料としては信頼性に欠けるという問題がありました。そこで導入したのが、経皮的動脈血酸素飽和度の24時間モニタリングシステムです。比較的症状の重い入所者に測定機器を24時間装着してもらい、Bluetoothで個室内の親機に飛ばしてWi-Fiで事務局の親機に転送しモニターで一覧することができるようにしたのです。寝ている間に酸素飽和度が下がる人もいれば、酸素を吸っても上がらない人がいますが、個室に閉じこもった入所者に対して継時的に患者情報を把握できるようになりました。

ホテルの個室でポータブルレントゲン検査をする様子

――実際にホテルの部屋でどのように診療を行ったのですか。

 第4波では、嘔吐、下痢の方も多かったので点滴が必要でした。点滴のライン確保に関しては、針刺事故の懸念があり看護師ではなく全例医師が担当しました。ホテルの部屋というのは診察室と違って薄暗く、手元がよく見えない上にN95マスクに二重の手袋、さらに脱水の患者さんは血管が虚脱していますから、慣れないうちは血管を探すのに手間取りました。換気のあまりよくない部屋で患者さんはマスクを外しがちで、こちらが感染しないかという不安もありました。輸液は最大で合計30リットルを使用した日もありました。点滴の在庫がなくて、大学から担いで持っていったこともあります。大変な日々ではありましたが、自ら往診したことで、次の波に向けてやるべきことが見えてきていました。

電子カルテシステムを用いてx-p画像を確認

――第5波に向けた準備とは。

 まず酸素供給機は、据え置き型ポータブル酸素供給器を2L型を20台と5L型を3台、24時間モニタリングシステム20台をゴールデンウィーク明けから順次手配していきました。さらに、紙運用していた10段階評価の健康観察票と患者管理情報のさまざまな様式のデジタル化に取り掛かりました。というのも、第4波で患者急変時にホテルで対面診療したのですが、その方の情報が書かれた紙カルテを探し出すまでに10人がかりで10分かかったことがあったんです。今すぐ呼吸が止まりそうな人が誰なのかがわからない、という最悪な状況でした。ヒヤリハットですね。これは危険だなと直感的に感じました。このようなことを繰り返していたら亡くなる方が出る可能性がある。そう思って、感染が落ち着いている時に紙カルテの電子化は必ずやらなければと思っていました。

――患者情報のデジタル化は、誰が行ったのですか。

 初めは外注を考えて宮城県の担当者と一緒にシステム会社に相談したのですが、金額、納期ともに折り合いがつかなくて(苦笑)。少なく見積もっても1500万円以上、対応するまでに3カ月以上は必要と言われて、これは間に合わないなと思いました。第5波までの時間的余裕がないと考えていましたので、仕方なく自分たちで作ることになりました。県の担当者も看護師の方もエクセルを扱い慣れていたので、トラブルが少ないように県の担当者と一緒にまっさらなエクセルファイルに一つ一つ入力し手作業で進めました。

 具体的には、毎日の運用から、県の情報、保健所の情報、保険証の情報、入所日、経過、投薬、患者背景など患者管理に必要な要素を抽出して、それぞれエクセルのシートに分けて一つずつ入力してフォーマットを作成していきました。運用開始時には8シート、その後必要に応じて追加し、現在は13シートまで増えています。それがいわば簡易電子カルテとなり、一人一つのファイルと全体の台帳とリレーションを組んで必要な情報をすぐに取り出せる仕組みにしました。紙の運用で起きやすい氏名や電話番号の転記ミス、二重カルテという問題も入力の簡素化でクリアしていきました。各人の勤務についても紙カルテの時には毎日患者情報確認のため24時過ぎまで残業していた状況が、申し送りも含めて20時には終了できるように改善されました。

電子ファイル化した患者情報

【取材?文?撮影=東北大学病院 溝部鈴】

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高山 真(たかやま しん)

1997年に宮崎医科大学医学部を卒業後、山形市立病院済生館で初期研修。2010年に東北大学大学院医学系研究科医学博士課程修了後ミュンヘン大学麻酔科ペインクリニック留学。2011年3月の東日本大震災後に被災地避難所の救護支援と並行して東北大学医学部復興事業に携わる。2015年に東北大学病院総合地域医療教育支援部准教授、2019年に東北大学大学院医学系研究科漢方?統合医療学共同研究講座特命教授。専門は、総合診療、循環器内科、漢方医学、地域医療。

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