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気になる症状 すっきり診断

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気になる症状 すっきり診断 2024.02.02

大動脈解離

心臓血管外科 准教授|熊谷紀一郎

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突然発症 最大級の痛み

 大動脈は人体で最も大きな血管であり、正常な直径は胸部で3センチ程度、壁の厚さは2ミリ程度です。心臓から送り出された血液は全て大動脈を経由し、大動脈から枝分かれした血管を介して全身へと行き渡ります。内膜、中膜、外膜の3層の構造となっており、最も内側の内膜に破綻が生じて中膜まで亀裂が入ることで、大動脈の壁自体が縦に裂けていく病気があります。大動脈解離です。

 多くは突然発症して、80%の患者さんは発症時に激烈な胸背部痛を自覚し、背中から腰へと痛みが移動する場合もあります。その痛みの強さはさまざまな痛みの中でも最大級といわれており、心筋梗塞との鑑別が重要です。

部位ごとに特徴

 また、解離が起きた血管の部位により症状が異なるという特徴があります。心臓近くまで解離が広がると、心臓の周囲に血液が貯留しショック状態になったり、冠動脈閉塞による心筋梗塞の発症や、大動脈弁逆流による心不全が生じたりします。脳血管が閉塞(へいそく)することによる脳梗塞、脊髄血管の閉塞による下半身まひ、腹部血管の閉塞による腹痛、下肢の血管が閉塞することによる下肢の痛みや麻痺なども挙げられます。一方で、5%程度、無症状の患者さんが存在するといわれています。

 大動脈解離を発症した場合は、早めに診断し治療する必要があります。診断は造影剤を用いたコンピューター断層撮影(CT)が有用で、通常容易に診断がつきますが、治療ができる医療機関は限られています。

緊急に開胸手術

 治療法は、解離が発生した場所により異なります。心臓に近い上行大動脈が解離した場合は致命的な合併症を生じることが多く、緊急に開胸して、大動脈を人工血管に取り換える手術を行わなくてはなりません。

 一方で、心臓から比較的遠い、背中側にある胸部下行大動脈以下が解離した場合は、一般的には内科的治療となります。これは、大動脈の壁が不安定な時期に拡大、破裂しないように安静を保ち、血圧を管理する治療です。

 ただし、腹部以下の血管閉塞などを合併した場合は、近年では緊急の血管内治療を行っています。血管内に「ステントグラフト」という自己拡張する人工血管を挿入して、解離の元になっている亀裂を内側からふさぐ治療法です。近年では、保存的加療が可能な場合でも、一定期間の内科的治療のあとでステントグラフトを挿入し、大動脈の遠隔期の拡大や破裂を予防する治療も行われるようになりました。

 急に発症し、命の危険が生じる大動脈解離は、予防することが難しい病気である上、緊急手術が必要な場合もありますが、近年になり治療成績は良くなっています。時期を逃さずに治療することが大事です。考えたくはありませんが、このような症状が出現した場合は、救急車で急ぎ、医療機関を受診しましょう。

河北新報掲載:2020年5月1日
一部改訂:2024年2月2日

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熊谷 紀一郎(くまがい きいちろう)

岩手県出身。1994年東北大学医学部を卒業。1998年に東北大学心臓血管外科入局。山形大学および宮城県内の心臓血管外科施設での修練を経て、2009年から東北大学心臓血管外科にて勤務。2021年東北大学心臓血管外科准教授就任。主に大動脈疾患の治療、臨床研究などを行っている。

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